タイトルにひかれて購読しました。しかし、その内容にはがっかりしています。
著者は、一九三三年生まれの数理統計学の専門家・竹内啓氏。こうしたタイトルの本を書くにはふさわしい経歴の方と言えます。
しかし、偶然と確率は無関係ではないかという思いがあるのですが、読み進めていくと、確率論の話が長く、無駄な話ばかりという印象。偶然とは、母数があるような出来事ではないはずです。サイコロを振って一が出る確率は、母数は六で、六分の一の確率ですが、例えば、道端を歩いていて、アリを踏みつぶすような現象は偶然で、確率論を持ち出して論じる話ではないはずです。踏みつぶした人にとっても、踏みつぶされたアリにとっても偶然以外の何ものでもないはずです。
また首をひねってしまうような記述も散見されます。例えば、突然変異、遺伝に関するところで(一三八ページ)、「遺伝情報はDNA分子の中に四種の塩基によって表わされる『アルファベット』によって書き込まれているが、……」と言っています。
「四種の塩基」とは、アデニン、グアニン、シトシン、チミンですが、それを「『アルファベット』によって書き込まれている」と言っているのは、意味不明であきれてしまいます。確かに、塩基の頭文字をとって、A、G、C、Tと表示しますので、これを「アルファベット」と言っているのでしょうが、素人レベルにさえ達しないほどの知識しかないことがわかります。
ちなみにこの書は、「あとがき」によると、著者がご高齢のためか、有森代紀子という方が原稿を整理し、出版されたようですので、いろいろ問題含みなのは、関係者の不手際の可能性があります。竹内氏の晩節を汚す怖れがあるのではないかと感じますので、速やかに廃刊にすべきだと思います。
新書で価格は安いですが、お薦めできない本です。お金と時間の無駄です。
『偶然とは何か――その積極的意味』
竹内 啓 著 765円(税込)