好評のNHK連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」。日本人の価値観、嗜好の分散化により、昔のように視聴率を稼げないご時世にあり、毎日二十%ほどの支持を得ているのは驚異的です。このドラマの場合、昼に再放送がありますし、BS2などでも見ることができます。一日四回観ている人もいるそうです。
最近この人気にあやかり、NHKに関係ない雑誌でも特集が組まれています。その中でSAPIOの特集(二〇一〇年九月八日号)の内容は秀逸です。
水木一家と、四十年来のつきあいがあるという呉智秀氏、俳優・大杉漣氏、作家・戸井十月氏などによるエピソードはどれも興味深いものです。
ゲゲゲの娘こと水木悦子さん、レレレの娘こと赤塚りえ子さん、ラララの娘こと手塚るみ子さんのインタビューもおもしろい。言うまでもなく、水木悦子さんは水木先生の次女、二人目は赤塚不二夫さんの一人娘、最後は、手塚治虫さんの長女です。
なかでも印象的だったのは、戸井十月氏の次の一節です。
「調布にある水木さんの事務所に何度も足を運び、ようやく正式なインタビューにこぎつけても一筋縄ではいかない。カメラが回っているのに、私の顔を見て『あれ、誰でしたっけ?』ととぼける。続けて『この頃たくさんの人が来るけど、金にならない人の顔はすぐ忘れるんだ』……水木しげるは予想以上に食えない人だった。」(SAPIOより引用)
通常の感覚では、「食えない」どころか、幻滅する人も発生するコメントです。
ところが一方で、水木先生は「金持ちになっても、大したことはない。ボタ餅が四つ食えるとかってわけじゃない。どうせ三つしか食えないのだから」とも言っています。
両方のコメントを併せてみると、水木先生を通常の価値観で判断するなら、奇人・変人の部類に属することは間違いないとしても、こうした、何もかも超越したような感性にあこがれを感じるのです。
この感覚は、私だけではないのではないかと思ったりもするのです。
Sapio 2010/9/8号
定価 500円(税込)
小学館